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野球中継で外野フライが上がると、三塁にいた走者がいったん塁に戻り、捕球と同時に本塁へ走り出す場面があります。これが「タッチアップ」と呼ばれるプレーです。犠牲フライで1点が入るおなじみの場面ですが、いつスタートしてよいのか、早く飛び出したらどうなるのかまで説明できる人は、意外と少ないかもしれません。
身近なプレーでありながら、細かな決まりは意外と知られていない様子がうかがえます。
この記事では、タッチアップの決まりを観戦する人が知りたい順に見ていきましょう。規則の番号は日米で共通しているため、日本の公認野球規則を読むときにも同じ番号で確かめられます。最後に、『ドカベン』で描かれた有名な「ルールブックの盲点の1点」とのつながりも見ていきましょう。
タッチアップとはどんなルール?
まずは、タッチアップがどのような決まりなのかを確認します。規則のどこに書かれているのかと、どんなフライのときに必要になるのかを順に見ていきましょう。
捕球後に元の塁へ触れ直す
タッチアップとは、打球がフライで捕られたあと、走者がもともといた塁に触れ直してから次の塁へ進むことです。公式野球規則では、この触れ直しを「リタッチ(retouch)」と呼んでいます。規則の用語の定義には、リタッチとは走者が規則にしたがって塁へ戻る行為だと書かれていました。日本では「タッチアップ」や「タッグアップ」という呼び方が広く使われていますが、規則のうえで中心になるのはこのリタッチという考え方です。
リタッチの決まりがはっきり書かれているのが、規則5.09(c)(1)です。ここには、飛球が捕らえられたあと、走者が元の塁にリタッチする前に、その走者か元の塁が触球された場合、アピールによってアウトになると定められています。つまり、フライが捕られたら、走者はいったん元の塁に戻らなければならず、それを怠ったまま守備側に正しくアピールされるとアウトになるわけです。
同じ5.09(c)(1)の注釈には、ここでいうリタッチの意味がさらに具体的に書かれています。リタッチとは、ボールが捕らえられたあとに塁に触れ、その塁との接触からスタートすることだという説明です。注釈の英文では、この行為を「tag up」と表現していました。日本で使われるタッチアップという言葉も、この「タグアップ」から来た呼び方だと考えると分かりやすいでしょう。
タッチアップは、走者にとって「進んでもよい権利」であると同時に、「戻らなければならない義務」でもあります。フライが上がった時点で塁を離れていた走者は、捕球されたら元の塁まで戻らなければなりません。一方で、塁に触れたまま捕球を待っていた走者は、捕球の時点ですでに条件を満たしているため、そのまま次の塁を狙うことができます。浅いフライなのか深いフライなのかによって、走者が塁に戻って待つか、少し離れて様子を見るかを判断するのはこのためです。
観戦のときは、フライが上がった瞬間の走者の位置に注目すると、タッチアップを狙っているのかどうかが見えてきます。三塁走者が塁に戻って構えていれば、捕球と同時に本塁を狙う準備をしているということです。反対に、二塁と三塁の間あたりで止まっている走者は、打球が落ちたら進み、捕られたら戻るという両にらみの位置にいると読み取れます。
ファウルフライでも必要になる
タッチアップは、フェア地域のフライだけの決まりではありません。規則5.09(b)(5)には、フェアボールまたはファウルボールが正規に捕らえられたあと、走者がリタッチする前に、走者かその塁が野手に触球されたときはアウトになると書かれています。ファウルフライが捕られた場合も、走者は元の塁に触れ直す必要があり、そのあとであれば次の塁へ進むことができるということです。
X(旧Twitter)では、野球ゲームでファウルフライのあとにタッチアップをされて驚いたという投稿も見られました(Xの投稿)。ファウルフライは捕られた時点でアウトになり、ボールはそのまま生きているため、走者は規則どおり塁に触れ直してから次の塁を狙えます。ファウル地域の深いところで捕球すると、送球に時間がかかるため、三塁走者が本塁を狙う場面も起こり得るわけです。
同じ5.09(b)(5)には例外も書かれています。注釈によると、ファウルチップのときには走者はタッチアップをする必要がなく、ファウルチップで盗塁することもできるとされていました。ファウルチップは捕手が直接しっかり捕った打球で、ボールは生きた状態が続きます。もしファウルチップと思われた打球が捕られなかった場合は普通のファウルになり、走者は元の塁に戻ると注釈は説明しています。
内野フライについても考え方は同じです。用語の定義のインフィールドフライの項目には、インフィールドフライが宣告されてもボールは生きていて、走者は捕球される危険を承知で進むか、普通のフライの場合と同じように、野手がボールに触れたあとにリタッチして進むことができると書かれています。インフィールドフライで打者がアウトになる場面でも、走者のタッチアップの決まりは通常のフライと変わらないということです。
反対に、フライが捕られずに地面に落ちた場合は、走者は元の塁に戻る必要がありません。落ちた打球はそのまま生きたボールとして扱われるため、走者は状況に応じて次の塁へ進みます。フライが上がったときに走者が中間で止まって打球を見ているのは、捕られるか落ちるかによって戻るか進むかが変わるからだと分かると、観戦の楽しみが少し増えるはずです。
いつスタートしてよい?
タッチアップでいちばん気になるのが、走者がいつ塁を離れてよいのかという点です。ここでは、スタートしてよい瞬間と、認められないスタートの仕方を確認します。
野手が最初に触れた瞬間から
走者がタッチアップでスタートしてよいのは、ボールが完全に捕られた瞬間ではなく、野手が最初にボールに触れた瞬間です。公式野球規則の用語の定義「捕球(CATCH)」の最後には、走者は最初の野手がボールに触れた瞬間に塁を離れてよいと書かれています。グラブの中にボールがしっかり収まるのを待つ必要はないということです。
同じ定義には、お手玉についての説明もあります。ボールが地面に触れる前に、最終的にいずれかの野手が保持すれば、お手玉をしたり、ほかの野手が保持したりしても正規の捕球になると書かれていました。そのうえで、走者は最初の野手が触れた瞬間に塁を離れてよいとされています。つまり、野手がボールを何度かはじいてから捕った場合でも、走者は最初にはじいた瞬間からスタートしてよいわけです。
X(旧Twitter)では、野球漫画でスタートを遅らせるためにわざとお手玉する場面を覚えていたけれど、あとからグラブにボールが触れた時点でタッチアップできると知ったという投稿がありました(Xの投稿)。お手玉で時間を稼いでも、走者のスタートは最初に触れた瞬間から認められるため、守備側が得をするとは限りません。規則の文言を知っていると、こうした場面の見え方も変わってきます。
2026年版の公式野球規則の改正点の一覧には、用語の定義のうち「捕球(CATCH)」などの項目を明確にしたことや、5.09(a)(1)の注釈と捕球の注釈の文言を定義に移したことが挙げられていました。走者がスタートしてよい瞬間についての一文も、2026年版では捕球の定義の本文に置かれています。日本の公認野球規則を読むときは、年度によって文言の位置が変わることがある点を意識しておくとよいでしょう。
捕球の定義には、正規の捕球と認められない場合も書かれています。野手がボールに触れた直後に他の選手や壁と衝突したり、倒れたりして、その結果ボールを落とした場合は捕球になりません。また、野手がボールを完全につかんでいることを示すだけの時間、ボールを保持している必要があるともされていました。走者がスタートしてよい瞬間と、捕球が成立するかどうかは別の問題として整理しておくと分かりやすくなります。
塁の後ろから走り出すのは不可
タッチアップでは、塁に触れてからスタートすることが条件です。規則5.09(c)(1)の注釈には、走者は塁より後方の位置から走ってきて、勢いをつけたままスタートする「フライングスタート」をしてはならないと書かれています。このような走者は、アピールによってアウトになるとされていました。助走をつけて塁を踏みながら走り抜ける形は、正規のリタッチとは認められないということです。
認められているのは、塁に触れた状態で待ち、野手がボールに触れた瞬間に塁を離れる形です。捕球の瞬間に合わせてうまくスタートを切れば、助走がなくても十分に速く次の塁へ向かえます。三塁走者が塁に片足をかけて体を本塁方向に向け、野手の捕球に合わせて飛び出すのは、このルールの範囲で最も早くスタートするための構え方だといえます。
2026年版の公式野球規則では、走者が塁へ戻るときの決まりも明確にされました。改正点の一覧には、規則5.06(b)(1)を改めて、走者が進むときや戻るときに塁へ触れる責任をより明確にしたことが挙げられています。改正後の5.06(b)(1)では、走者が両足を塁の後ろの端より先の地面に着けた場合などに、その塁を通過したとみなすと書かれていました。走者が通過した塁に戻るときは、次に進む前にその塁に触れ直す必要があるとも定められています。
規則の付録には、走者が塁を通過したとみなされる位置を図で示したAppendix 6も新しく加えられました。2026年版の改正点の一覧でも、走者が進塁や帰塁をするときの責任を示す図として、この付録の追加が挙げられています。タッチアップで元の塁に戻るときも、塁を通り過ぎてしまえば触れ直しが必要になるため、こうした図は観戦の参考にもなるでしょう。
なお、日本野球規則委員会が2025年11月20日に発表した2026年度の野球規則改正は、2025年の米国の公式野球規則の改正にともなうものだと資料に明記されています。MLBの2026年版で加わった5.06(b)(1)の改正やAppendix 6が、日本の公認野球規則にどのように反映されるかは、今後の日本野球規則委員会の発表で確かめる必要があります。日米で規則の年度がずれることがある点は覚えておきましょう。
離塁が早いとどうなる?
走者が捕球より前に塁を離れてしまった場合は、自動的にアウトになるわけではありません。ここでは、アピールプレイのしくみと、アピールできる期限を確認しておきましょう。
守備側のアピールでアウト
タッチアップで離塁が早かった走者は、守備側がアピールしたときに初めてアウトになります。規則5.09(c)は「アピールプレイ」の項目で、ここに挙げられた場合に走者はアピールによってアウトになると定めています。その1つ目が、飛球が捕らえられたあと、走者が元の塁にリタッチする前に、その走者か元の塁が触球された場合です。審判員が自分から判断してアウトにするのではなく、守備側の働きかけが必要だという点が大きな特徴です。
アピールの方法としては、ボールを持った野手が走者に触球するか、元の塁に触れることが考えられます。5.09(b)(5)でも、走者がリタッチする前に、走者かその塁が野手に触球されたときはアウトになり、これはアピールプレイであると書かれていました。離塁が早かった走者が塁に戻る前に、野手がボールを持ってその塁を踏み、審判員にアピールすれば、走者はアウトになるわけです。
ただし、ボールを持って塁を踏むだけで、いつでもアピールになるわけではありません。5.09(c)の注釈には、アピールは言葉による要求か、審判員にアピールだと明白に分かる行為で、はっきりアピールだと意図されたものでなければならないと書かれています。ボールを手にした選手が、何気なく塁を踏んだだけではアピールにならないとも説明されていました。守備側は、審判員に分かる形でアピールの意思を示す必要があるということです。
同じ注釈には、アピールが行われている間もタイムにはならないとも書かれています。ボールは生きているため、アピールのための送球がそれた場合などには、走者が次の塁を狙うこともできます。また、投手がアピールしようとしてボークをした場合は、その行為はプレイとみなされると説明されていました。アピールのやり方を誤ると、思わぬ結果につながることがあるわけです。
アピールの期限についても、5.09(b)(5)に定めがあります。走者は、次の投球や、何らかのプレイやプレイの企てが行われたあとでは、リタッチを怠ったことを理由にアウトにされることはないとされていました。離塁が早かったことに守備側が気づいても、次の投球のあとではもうアウトにできないということです。アピールは、タイミングを逃さずに行う必要があります。
アピールできるのは次の投球まで
アピールの期限について、規則5.09(c)はさらに詳しく定めています。この規則によるアピールは、次の投球や、何らかのプレイやプレイの企てが行われる前に行わなければならないとされていました。さらに、イニングを終わらせるプレイの中で違反が起きた場合は、守備側のチームがフィールドを去る前にアピールしなければならないと書かれています。
ここでいう「フィールドを去る」の意味も、規則にはっきり書かれていました。5.09(c)によると、投手とすべての内野手が、ベンチやクラブハウスに向かうためにフェア地域を離れたときに、守備側はフィールドを去ったとみなされます。3つ目のアウトを取ったあと、選手たちがベンチに戻り始めても、投手と内野手がフェア地域に残っている間であれば、まだアピールが可能だということです。
アピールのやり直しにも制限があります。5.09(c)には、同じ走者に対して同じ塁で続けてアピールすることはできないと書かれていました。守備側が最初のアピールで誤った場合、同じ走者の同じ塁についての2度目のアピールは、審判員が認めないとされています。ここでいう「誤る」の例として、アピールしようとして投げたボールをボールデッドの区域に投げ込んでしまった場合が挙げられていました。
また、アピールはプレイやプレイの企てとはみなされないとも明記されています。これは、ひとつのアピールを行ったからといって、ほかのアピールの権利がなくなるわけではないということを意味していると読めます。たとえば、ひとつのプレイの中で離塁の早い走者と、塁を踏み忘れた走者がいた場合などに、この考え方が関係してくるでしょう。
観戦のときは、フライのあとに守備側が元の塁へボールを送り、審判員に向かって何かを示している場面に注目してみてください。それが離塁の早さを指摘するアピールであることが多いはずです。アピールが認められれば審判員がアウトを宣告し、認められなければプレイはそのまま続きます。次の投球の前に行われる短いやりとりにも、規則の大切な決まりが隠れています。
反対に、アピールにあたらない動きについても5.09(c)の注釈に例が載っていました。ボールを持った選手が、アピールのつもりがないまま不用意に塁を踏んだだけでは、アピールにはならないという例でした。期限内であっても、守備側がアピールだとはっきり示さなければ、審判員がアウトを宣告することはないということです。
得点はどう決まる?
タッチアップは得点に直結するプレーです。ここでは、タッチアップで本塁に向かった走者の得点がどのように認められるのかと、後ろを走る走者への影響を確認します。
3アウト目より先に本塁を踏めば
得点の決まりは規則5.08(a)に書かれています。走者が一塁、二塁、三塁、本塁の順に正しく進んで触れ、そのイニングを終わらせる3つ目のアウトが成立する前に本塁に触れるたびに、1点が記録されるという決まりです。2アウトになっていなければ、外野フライが捕られたあとに三塁走者がタッチアップで本塁に触れれば、1点が入るわけです。
この規則には例外があります。3つ目のアウトが、打者走者が一塁に触れる前にアウトにされたとき、走者がフォースアウトになったとき、前の走者が塁を踏み損ねてアウトを宣告されたとき、のいずれかで成立したプレイ中には、走者が本塁に進んでも得点にならないとされていました。この3つにあてはまらない3つ目のアウトであれば、本塁に触れたのと3つ目のアウトのどちらが先だったかによって、得点が認められるかどうかが決まります。
5.08(a)の注釈には、タッチアップに関係の深い一文もあります。正規に記録された得点は、その後の走者の行為によって取り消されることはないという内容です。例として、捕球より前に塁を離れたと思い込んだ走者が、三塁に戻ろうとした場合が挙げられていました。走者自身が戻ったからといって、すでに認められた得点がなくなるわけではないということです。
一方で、離塁が早かった走者がアピールでアウトになった場合は、扱いが変わります。5.09(c)には、ひとつのプレイの中で3つ目のアウトが成立したあと、別の走者に対するアピールが認められた場合は、アウトを決めるうえでアピールの判定が優先されると書かれていました。タッチアップで本塁に触れた走者でも、守備側が期限内に正しくアピールすれば、その走者のアウトが優先され、得点が認められない場合があるわけです。
ここで2アウトの場面を考えてみましょう。2アウトで外野フライが捕られると、その時点で3つ目のアウトとなりイニングが終わります。そのため、2アウトでのフライ捕球でタッチアップから得点することはできません。犠牲フライが記録されるのも、規則9.08(d)により2アウト未満のときに限られていて、外野手などが扱った飛球が捕られたあとに走者が得点した場合だと定められています。
後ろを走る走者への影響
タッチアップの場面では、複数の走者が同時に動くことがよくあるものです。前の走者がリタッチを怠った場合、後ろの走者の得点や進塁に影響するのかどうかは、規則5.09(d)に定められています。この規則によると、2アウトでない限り、前の走者が塁に触れ損ねたりリタッチを怠ったりしても、後ろの走者の立場には影響しないとされていました。
ただし、2アウトのときは事情が違います。5.09(d)には、アピールによって前の走者が3つ目のアウトになった場合、その走者より後ろの走者は得点できないと書かれていました。さらに、その3つ目のアウトがフォースプレイによるものであれば、前の走者も後ろの走者も得点できないとされています。アウトカウントによって、ひとつのアピールが試合に与える影響の大きさが変わるということです。
5.08の注釈には、関連する承認された判例も載っています。ひとつは、打者走者が一塁に触れる前に3つ目のアウトにされたプレイ中には得点が認められないという例です。1アウト二塁一塁で安打が出て二塁走者が本塁に触れ、一塁走者は本塁への送球でアウトになって2アウトとなったものの、打者走者が一塁を踏み損ねていてアピールでアウトになったため、得点が認められなかったという流れが示されていました。もうひとつとして、2アウトでない限り後ろの走者は前の走者の行為に影響されないという判例も示されています。
こうした規則を組み合わせると、タッチアップの場面で守備側が考えるべきことが見えてきます。まずアウトカウントを確かめ、離塁の早い走者がいればその塁にボールを送ってアピールする必要があるかを判断するのが第一歩です。そして、3つ目のアウトとなるプレイがあれば、それがフォースアウトかどうか、得点より先か後かを見極めることになります。
X(旧Twitter)でも、捕球や送球のミスよりも判断のミスのほうが叱られやすいという投稿がありました(Xの投稿)。タッチアップの場面は、走者にも野手にも一瞬の判断が求められるプレーです。規則を知っておくと、テレビの前でも、どの塁に投げるべきだったのかを考えながら試合を楽しめます。
5.09(c)の注釈には、2人の走者がほぼ同時に本塁へ到達する例も載っていました。前の走者が本塁を踏み損ね、後ろの走者は正しく本塁に触れた場面で、前の走者がタッグされるかアピールでアウトになり、それが3つ目のアウトになった場合です。このとき前の走者は後ろの走者の得点より先にアウトになったとみなされ、後ろの走者の得点も認められないとされています。
ドカベンの名場面とタッチアップ
最後に、『ドカベン』で描かれた有名なエピソードと、タッチアップの決まりとのつながりを見ていきます。ここまでの規則を知っていると、この場面がなぜ「盲点」と呼ばれたのかが分かりやすくなるはずです。
明訓対白新で描かれた1点
『ドカベン』には、タッチアップとアピールプレイの決まりを題材にした有名なエピソードがあります。MANTANWEBの2019年7月の記事によると、山田太郎が率いる明訓高校が、不知火守が率いる白新高校に、選手にあまり知られていなかったり忘れられていたりするルールによって勝利する話です。このエピソードは1978年に「週刊少年チャンピオン」に掲載され、コミックス第35巻に収録されていると紹介されていました。
同じ記事では、実際の高校野球でも同じようなプレーがあり話題になったことにも触れています。また、2019年7月18日発売の「週刊少年チャンピオン」33号にこのエピソードが再掲載されたことも伝えていました。連載開始から長い年月がたっても、この場面がたびたび取り上げられてきたことがうかがえます。
場面の流れについては、テレビアニメ第147話「不知火散る! 痛恨のルールブック」を紹介した解説に詳しく書かれていました(ミドルエッジ)。それによると、10回表の明訓の攻撃は1アウト満塁で、三塁走者は岩鬼、一塁走者は山田です。スクイズのサインで三塁走者がスタートしたものの、打球は投手への小フライとなって捕られ、2アウトになりました。三塁走者はそのまま本塁に入り、投手は一塁から離れていた走者をアウトにするため一塁へ送球して、3アウトになったという流れです。
規則に照らして考えると、このとき三塁走者は捕球のあと三塁にリタッチしていないため、守備側がアピールすればアウトにできる状態でした。けれども、5.09(c)(1)のとおり、リタッチを怠った走者はアピールがなければアウトになりません。そして、一塁でのアウトはフォースアウトではなく、5.08(a)の例外にもあてはまらないため、3つ目のアウトより先に本塁に触れていた三塁走者の得点が認められたわけです。
解説によると、白新の選手たちは3アウトでチェンジだと考えてベンチに戻り、そのあとで明訓の1点が認められたとされています(ミドルエッジ)。ここまで見てきた規則を知っていれば、守備側がどうすればよかったのかも分かります。その答えが、次に説明する「第3アウトの置き換え」と呼ばれる考え方です。
第3アウトの置き換えとは
規則5.09(c)には、アピールプレイによって、審判員が見かけ上の「第4アウト」を認める必要がある場合があると書かれています。3つ目のアウトがあるプレイ中に成立したあとで、別の走者に対するアピールが認められた場合は、アウトを決めるうえでアピールの判定が優先されるという決まりです。日本ではこの考え方が「第3アウトの置き換え」と呼ばれることがあります。
同じ規則には、イニングを終わらせるプレイの中で複数のアピールがある場合、守備側は自分たちに有利になるアウトを選べるとも書かれていました。明訓対白新の場面に当てはめると、一塁で3つ目のアウトを取ったあとでも、三塁にボールを送って三塁走者のリタッチを怠ったことをアピールすれば、そのアウトを3つ目のアウトとして選べたことになります。そうすれば、三塁走者の得点は認められなかったと考えられるわけです。
ただし、このアピールにも期限があります。先ほど見たとおり、イニングを終わらせるプレイの中で違反が起きた場合は、守備側のチームがフィールドを去る前にアピールしなければなりません。投手とすべての内野手がフェア地域を離れた時点で、フィールドを去ったとみなされます。白新の選手たちがベンチに戻ってしまったことで、アピールの機会がなくなったというのが、この場面の大きなポイントです。
この場面が「ルールブックの盲点」と呼ばれたのは、3アウトを取ったのに得点が入るという結果が、多くの人の感覚と違っていたからでしょう。実際には、規則の一つひとつは明確に書かれていて、リタッチを怠った走者はアピールがなければアウトにならないこと、得点は3つ目のアウトとの前後で決まること、アピールの期限はフィールドを去るまでであることの組み合わせで説明できます。
『ドカベン』を読み返すときは、この場面のコマの中で、三塁走者がどこにいて、守備側がどこに送球したのかを規則の番号と照らし合わせてみるのもおすすめです。タッチアップという身近なプレーの決まりを知っていると、作品の中の駆け引きがより深く味わえます。実際の試合でも、フライのあとに守備側が三塁へボールを送る場面があれば、このエピソードを思い出してみてください。
まとめ
タッチアップは、フライが捕られたあとに走者が元の塁に触れ直してから次の塁へ進むプレーです。この記事で確認した要点は次の5つです。
- フライが捕られたら走者は元の塁にリタッチする必要があり、フェアでもファウルでも同じで、ファウルチップでは不要とされている
- 走者がスタートしてよいのは、野手が最初にボールに触れた瞬間で、塁の後方から勢いをつけるフライングスタートは認められない
- 離塁が早かった走者は自動的にはアウトにならず、守備側が次の投球やプレイの前に明確にアピールしたときにアウトになる
- 得点は3つ目のアウトとの前後で決まり、期限内のアピールが認められればその判定が優先される
- 『ドカベン』の「ルールブックの盲点の1点」は、リタッチを怠った走者へのアピールと第3アウトの置き換えの決まりで説明できる